全山の絞る力を滝と呼ぶ | 惨劇をさながら一家昼寝して |
コキクケコカコ昼蛙ゆめうつつ | としよりが毛虫いぢめる棒の先 |
冷蔵庫ひらく妻子のものばかり | 金魚玉金魚をふつと消す角度 |
昼寝などしてゐるうちに逃げられし | 夕立あと日が射しまるで新世紀 |
鉄塔が据わりて冬田動かれず | 二階より素足下りくる春の朝 |
遠足がぐつたりとバス降りて来る | 告別の矢印枯野指しゐたり |
足袋を穿く妻臥しながら見てゐたり | ビル工事寒し堕々々々々々々々と |
老人はくさめのあとをぶつくさと | 野火放つ一瞬愉快犯の快 |
ソフトクリーム下からもその甘露なめ | 蠅たかる死んでからみな行くところ |
また別の涼しさ池のこちら側 | 淫靡なるかな中年の平泳ぎ |
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☆辻田克巳略歴
昭和6年3月28日、京都生まれ。昭和32年、秋元不死男・山口誓子の同時師事。氷海賞、天狼コロナ賞、また第二句集で俳人協会新人賞、第四句集で宇治市紫式部市民文化集受賞。平成二年「幡」創刊、主宰。句集『明眸』『オペ記』『頬杖』『幡』、『自註句集辻田克巳集』『辻田克巳句集』 、共著に『俳句の旅』『京都吟行案内』『仏教歳時記』『俳文学大辞典』その他がある。日本文芸家協会会員。俳人協会理事。 |